寝返りをうった拍子にダンボール越しに肩の下に小石の感触が伝わってきたせいで僕は目が覚めた。

(あれ? 弓華さんは……)

 隣で同じように寝ていたはずの彼女の姿がそこにはなかった。

(まさかまた消えたんじゃ)

 べつにいままでも消えたことはなかったのだけど、そんなふうに思ったとき、ふとドームの穴から差し込む月明りに影がさしているのに気付いた。

 ドームの上。

 そこに、彼女はいた。

 微かな月明りの中、彼女は膝を抱えて顔をうずめ、白い服は月光の加減で青白く燐光を放っているように見えた。

(綺麗だ……綺麗だ、けど……)

 僕には彼女がとても小さく、弱々しく見えた。

 活発というほどの明るさではないけれど、昼下がりの陽光のような明るさ。

 物静かと思えば悪戯な茶目っ気をだしてみたり、意外と頑固だったり、不意に塞ぎ込んでみたり。

 ちょっとした違いの一つ一つが、僕の心を不思議と惹く。

――惹かれて……

「京介……」

 不意に彼女がとても遠い存在になる。

 彼女は顔を伏せ、震え──そして、泣いていた。

 逢いたい人を想って……。

 僕は何もできずにいた。

 僕にできたのは彼女に気付かれないようにドームの中に戻ることくらいだった。

 いまは、出るべきじゃない。

 いま出て彼女に触れていいのは、きっと京介という男だけだ。赤の他人である僕が、触れてしまってはいけない。

 それは彼女のことを想うからこそ。

 そう、彼女のため、なんだ。

 彼女の……。

 僕は彼女を京介のところへ連れて行く。

 それが、僕にできる彼女への想いの証しになる、きっと。

(絶対に彼女を京介さんのところに連れて行こう)

 それは慈愛でも、自己犠牲でもなんでもなく。

 ただ、そうすることでしか自分の気持ちのやり場がないだけ。

 それだけのことなのだ。