「ゴメンなさい……」

 弱々しい声。

 弓華は僕を見上げて眉寝をちょっと寄せると、力なく頭を下げた。

「いいよ、べつに」

 乗れなくて困るのは弓華で、僕は──

「それより、膝、だいじょうぶ?」

 と、強烈な不安が僕を襲った。

「大丈夫、なんともないわ」

 彼女は一瞬ビクッ、として平常を保とうと目一杯の努力をしたけれど……動揺が引きつった笑みのせいでまるわかりだった。

「ちょっとみせて!」

 かがみ込み、スカートをたくしあげようとする。

 落ち着いて考えればかなり危ない行動だけど、このときの僕は不安が先立ってそんなことなどお構いなしだった。

「ダメ! 大丈夫だから」

 スカートに手がかかるより先に、しゃがみ込んで膝を押さえる彼女。

「そんなわけないだろ、あんなに派手にコケたんだから!」

 なぜかかたくなに膝を見せようとしない彼女に疑問を感じるよりも、僕は心の中で膨れ上がった不安で半ば強引に彼女の手をのけた。

「ダメ!」

 手の下から現れたのは、アスファルトの黒い泥と紅い血が滲んだ、痛々しい擦り傷。

「ほら、こんなに血が……」

 僕はポケットからハンカチを取り出し、傷口に巻いた。

「あ……」

「いいからいいから。それより、とにかく駅をでよっか? もう電車ないし」

「ゴメンなさい……」

 僕は軽く笑みを作ってみせ、彼女を立ち上がらせると二人してホームを後にした。