不意に響き渡る入線のベル。

 それからほどなくして電車がやってきた。これに乗れば目的地まで行ってくれる。

 僕らは立上がり──

「きゃ!!」

 まったく不意の突風が僕らを襲った。

 僕は少しよろめいた程度。けれど弓華は、

「大丈夫!?」

 突然の風が羽織っていたコートを目一杯はためかせてしまい、堅いアスファルトの地面に引きずられるように膝から倒れてしまった。

「大丈夫、それより電車」

 そうだ、とりあえず電車に乗り込まないと、これに乗れないと野宿――

「あ!?」

 彼女の手をとって電車に走ろうとしたそのとき、彼女が何かに気づいて立ち止まった。

「どうしたの、はやく!」

「コートが、階段の下に」

 よりによって僕のコートがホームに上がるための階段の一番下まで風に飛ばされていた。

 そして電車は無情にも、定刻通りに発車していった。