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1時間ほど前。

篤志が車に乗せられる少し前のことである。

部下達が劇団員の手当てをしている中

美知瑠は一人、

舞台に戻り、ぐったりとしている紫苑の元へと歩み寄った。

美知瑠「…時が、来ました。」

放心状態から意識をとり戻していた紫苑は、

ゆっくりと顔を上げる。

丸居「…ねぇ、ルルちゃん、僕は公衆の前で死ななくても良いんだね?」

美知瑠「えぇ。」

丸居「そうか。気を利かせてくれたんだね。ありがとう。」

美知瑠「別に…。たいした気遣いじゃないですよ。お礼なんていりません。」

丸居「アハハ。照れ屋さんだな〜 ルルちゃんは。」

丸居紫苑は明るい男だ。

美知瑠「て…照れてなんか無いです。」

丸居「ところでさ、他のメンバー達は、皆無事だよね?死ぬのは僕だけで充分だ。」

美知瑠「それに関しては安心して下さい。怪我はありますが、皆しっかり生きてますよ。」

丸居「…なら、それで良い。」

たんたんと話す二人。

心の中では滝のような涙を流しているが

最期の時だ。

二人とも、泣かないと決めている。


美知瑠「丸居さん、私、本当は貴方を殺したくなんてないんですよ…。でもね…」

丸居「…分かってる。」

美知瑠「え…?」

丸居「分かってるって。そんなこと、言われなくてもさ。だって…僕がルルちゃんのこと大好きなんだもん、ルルちゃんも僕が好きじゃなきゃ おかしいでしょ?」

相変わらずのお調子者なんだな…。この人は。

美知瑠「…もぉ。ほんと、ナルシストですよね。丸居さんたら。」

でも…

美知瑠「でも、確かに。私も丸居さんのこと 大好きですよ。有難う。」


丸居「……うん。で、愛しのルルちゃん?僕はどうやって死ねば良いのかな。」

急に切り替える丸居。
いよいよ別れが近づいて来たのだ。

美知瑠「一瞬で逝かせてあげます…。目、つぶって。」

丸居「は〜い♪ありがと。じゃあね…ルルちゃん。あと…皆によろし…く…ね…」


グサッ

パタリ。




こうやって
紫苑は死んだんだ。


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