百合はいつものように、朝起きて、コーヒーを入れてから、夫や姑の、弁当と朝食の準備を始めた。


テレビからニュースが流れる。

「…の…さんに関する…を…」

テレビの音は、フライパンの音にかき消される。


百合は、鼻歌交じりに調理をしていた。


「おはよう百合さん。何か手伝おうか?」


「大丈夫。ゆっくりしてて」


そういって百合は紅茶を差し出す。


甘い香りの湯気が、マグカップから立ち上っていた。


「ありがとう。頂くわ。」


「私翔太起こして参られますね。」


たまに苦手な敬語を無理して使う百合を見ていると、おかしくなる。


百合の中で、何かを制御しているんだろう。


「家族なんだから、もっと馴れ馴れしくてもいいのに。」


そんな百合を見て、祥子は少し、寂しい気持ちになる。


テレビからは、同じニュースが何度も流れている。


「まぁ行方不明ですって。なんかあの頃にそっくり。」


テレビを見ながら、独り言をもらす祥子だった。