百合は、テレビのスイッチを切った。


ここ一ヶ月で、もう三十人ほどの人間が行方をくらませている。


不安は、日に日に大きくなっていく。


「行くよォ〜。」


翔太が声をかける。


今日はみんなで出かけようと話していたのだ。


百合が運転席に、後部座席に二人が乗り込む。


「ママァ〜お腹空いたぁ〜。」


「チョコあるわよ。」


「あ〜ん。」


二人の会話を聞きながら、ユリは心の中で毒づく。


『人が心配してるってのに、バカはのんきで良いわね。』


「百合さんも食べる?」


「いらない。」


百合はぶっきらぼうに答える。


少しイライラしているのが、祥子にも伝わる。


「どうしたの?」


「何でもないわ。」


「ママァ〜枕してぇ〜。」


「良いわよ。」


百合はとうとうキレた。


「いい加減にしなさいよ!!おかしな失踪事件が続いてるって時に、外出よくそんなことできるわね!!少しは、警戒しようと想わないの!?外でそういうことしないで!!二人が消えても私探さないから!!」

百合の突然の怒鳴り声に、二人の動きが止まる。


「ママァ〜百合が怖いィ〜。」


泣き出す翔太をなだめながら、祥子は反省した。


百合は、このおかしな事件が自分たちと無関係ではないと感じていた。


それを自分たちに話さなかったのは、不安にさせないためだろう。


「ゆりさん、ごめんなさいね。ほら、翔太ももう泣かないの。」


「うん。ごめんねェ〜百合ィ〜。」


「気をつけてよ。」


車は信号で停止した。