でも俺は返事を待つ桜井さんにくいっと軽く頭を下げただけで答えて、すぐに背中を向ける。


「圭介くん、ただいまでしょう?」


そう優しくたしなめる桜井さんに、前を向いたまま小さな声でただいまと呟いて部屋に戻った。


そしてかばんを机に投げ制服を脱ぎ捨てて手早くジャージをはく。


「あっちぃ……」


はぁっと短くため息をつき熱気のこもった部屋の窓を開け放つと、どかりと椅子に座って机の引き出しを開けた。


その乱雑にいろんな物が詰め込まれている四角い空間に隠した煙草を無表情で眺める。


俺はそれに火をつけて肺に煙を充満させると、床に落ちている制服を冷たく見下ろし自嘲気味に笑った。


「……あんたの制服、今俺が着てるよ。あとかばんも。……複雑な心境だけど、俺じゃ買えないしね」