「ねぇ葵さん。俺、葵さんがいなくなってからずっと泣いてないんだ。全然涙が出ないんだよ。だから葵さんと一緒に赤い涙を流すんだ」


こうして新しい傷を作ると、なぜか凄く安心した気分になれた。


でもそれもほんの一瞬で、少しずつ俺の表情が苛立ち始める。


置き去りにされた憎しみが、徐々に心の底の黒い沼からごぽごぽと汚い音を立てて姿を現す瞬間だ。


必死に止める俺の手を振り払い、押し退けてまで人生を終わらせた葵さんの背負っていたものを俺はほとんど知らないけど。


たとえ想像もできないくらいの大きな苦しみがあったとしても。


俺は自らの手で命を絶つ行為自体が、どうしても許せなかった。


それはきっと自然と自分の親にだぶらせてしまうせいかもしれない。


血まみれの葵さんの姿があまりにも母親の最後と似すぎていて、時々自分が葵さんのことを考えているのか母親のことを考えているのか、混乱してしまう時まであった。