その中からいつものように取り出した物をジャージをたくし上げた左腕へと押し当てる。


そして肩からひじの内側を沿って、手首の付け根まで延びた長い長い傷跡を強くなぞった。


赤い鮮血がじゅわりとにじんで、徐々にぷくぷくとふくらんでいく。


それがまわりの血を吸い取り合って大きな雫に変わると、重さに耐え切れなくなったものから腕を伝ってぽとりぽとりと流れ落ち始める。


「……まるで葵さんの涙だね」


そう呟いてそのてらてらと光る赤い粒を生み出す新しい傷口をじっと見つめた。


葵さんが残したこの傷だけは消したくない。


これは葵さんが生きた証。


そして俺が葵さんを忘れていない証。


だからこの傷口が塞ぎかけるたびに腕に刃を突き刺してきた。


右手に持ったカッターをペンケースにしまった俺は、無造作に血を拭き取って慣れた手つきで包帯を巻きつけた。