みんな寝静まった深夜を見計らって俺はむくりと起き上がった。


なるべく音を立てないようにはしごを下りて机に向かう。


教科書と一緒に並んでいる小さなライトをぱちんとつけると、白い明かりが薄ぼんやりと机を照らし出した。


手元以外が真っ暗闇の中、静かに椅子に座って引き出しを開ける。


そこから細長いペンケースを机の上に出すと、俺はゆっくりと深呼吸した。


「葵さん、みんなが少しずつ葵さんのことを忘れていってるんだ。まるで最初から葵さんが存在しなかったみたいに……」


きっとこのままみんなの記憶から葵さんがいなくなってしまうという焦りをひしひしと感じる。


「大丈夫、俺は絶対に忘れないから。大丈夫だよ」


そう呟いてすぐに鈍く光るペンケースを開けた。