毎日通る顔なじみな受付の女性がふわりと笑顔を見せると、翼もにこにこと楽しそうに返す



「お話は伺っております。アポは緊急以外受け付けないとのことです。どうぞごゆっくり」

「ありがとう。何かあったら幸弘に連絡してくれ」

「かしこまりました。翼ちゃん、社長にいっぱい甘えちゃいな」

「うん、ずっと一緒にいる!」



明るい声に彼女がどれだけ楽しみにしているかがよく伝わってくる

手を振る受付嬢に会釈して掛けられる挨拶にも軽くかえし、ロビーを抜けると既に入り口に付けられている俺の車


仕事の早い秘書が運転手となりドアを開けて待っていてくれる



「早過ぎないか?」

「まぁ慎には到底できない技だな」



ニヒルな笑みを浮かべる幸弘は早く乗れと急かすと、乗り込んだのを確認しドアを閉めると自らも乗り込み発車させた


行き先は会社近くにある役所だ

幸弘の図らいで置いてあったそれはファイルにいれられてはいるが薄く、軽い


しかし確かな存在感と重さも感じるという何とも言えない矛盾がまた責任を強くさせる


繋がれた手は自分のものよりも当たり前だが小さく、細い


これから先何年、何十年と添い遂げ、そして同時に護り抜いていくのだ

ただの薄い紙一枚で、彼女のこれから先の人生を背負わさせてもらうんだ


急に湧き上がる感情に胸が熱くなる


ぎゅっと、繋いだ手に力を込めると翼が瞳を向ける。



「幸せになろうな、翼」



友人の運転する車内で、最愛のひとのすぐ隣


翼を護り、愛し、幸せにすることを覚悟したーーー…