「 菜緒さんとの映画があるから
  一日くらい頑張れますよ 」


「 ・・・・・・ッ 」





この、天然め。





その言葉の威力を知らない彼は
屈託なく笑っているけど、
あたしはさっと目を逸らして
緩む頬をなんとかするために
下唇をぎゅっ、と噛んでいた。





「 菜緒さん? 」


「 え? 」


「 つきましたよっ 」





ふわっ、と浮いた体。
閉まりかけたドアの隙間に
彼が滑り込んで、気付けば
駅のホームにいた。





「 ・・・・・え!? 」





お腹に回された彼の手が
ゆっくりと離れていって
”危なかったですね”と
笑う彼から再度目を逸らした。