「チョコもいいかなと思ったんだけど、授業前ならクッキーのほうが食べやすいかなって思って。どうかな?」

「わあ、おいしそーっ! ありがとーかをるちゃん! かをるちゃんのお菓子いつもおいしいもんね。早速食べちゃお」

 まだ先生が来るまで五分ほどあるから、とガサガサ袋を開け始める優月を見ながら、かをるちゃんは満足げに微笑んでいる。「喜んでくれてよかった」と呟く様子を見ていたら、思わず吹き出してしまった。

「咲ちゃん……? どうかした?」

「うっ、ううん、何でもない! ありがとね、かをるちゃん! そうそう、あたしもこれ持ってきたんだ。よかったらあとで食べよ」

「あ、咲ママの恒例チョコ! わーいっ、咲ママもお菓子作り上手なんだよねっ。ラッキー」

 中学から一緒の優月は驚きもせずあたしの鞄から覗くピンクの箱に目を輝かせる。きょとんとしたかをるちゃんと、今頃家で自分用に作った同じものを食べているのだろう母親を頭の中で比べながら、いつしかあたしは笑っていた。

 ――やっぱり、ママと似てるんだから。

 それが、初めて会った時からなんとなく気になって、一番最初に声をかけた理由。同じ中学から入った子たちで盛り上がる教室の隅、一人ぽつんとしてたかをるちゃん。その瞳が心細げに見えたこともきっと、大きな原因だったかな。

 もともとお節介なところがあると自覚してるあたしだけれど、友達になれる子を見極める目は持ってると思う。だからこそ、中学時代結構やんちゃしてた優月に高校で再会した時、あたしから携帯番号を聞いたりもしたんだ。

 中学の時も学校で話はしたけれど、今みたいにプライベートまで付き合ったりはしてなかった。でも、見た目だけじゃなく、心までも変わりたがっている優月に気づいたからかもしれない。それが原因で一悶着あった過去も、今ではいい思い出だ。なんて――全ては、天使みたいに綺麗な心で許してくれたかをるちゃんのおかげなんだけどね。