空は暗くなる。なのに菜の花はいつまでも明るくって、ナユタはいつまでもナユタだった。

帰宅途中らしき自転車が、ベルを鳴らしながら通り過ぎてゆく。
無灯火は危ないよ、なんてどうでもいいことを心の中で呟いた。
その声が聞こえたのか、それとも自動だったのか、離れてから自転車の前方が明るくなったような気がした。
 

ナユタが立ち上がった。デニムについた草と土を払う。
スピーカーが閉じられ、ビートルズが消える。
 
途端、世界にふたりだけになった気がした。
もちろん現実には違う。遠くから電車の音が聞こえるし、見えなくなっただけで自転車だって犬だっているはずだ。

でも今ここにはふたりしかいない。
そんな状況、今までもたくさんあったのに。
私の部屋、ナユタの部屋。車の中、夜道の散歩。さびれた動物園、小さな図書館。
ああ、意外と、私はナユタとふたりっきりでいたのかもしれない。