「何か悩みなら、相談にのろうか」
 
もしもじゃあここで「別れた男との最後のセックスが忘れられないんです」って言ったら、彼は的確なアドバイスをくれるのだろうか。
いや、答える姿が目に浮かぶから、そんなことお金積まれても言わないけれど。

「大丈夫です。コーヒー飲んできます」
 
そもそもそんな単純な悩みなら苦労などしない。私ならきっとすぐにでも会いにいくだろう。

まだ何か言いたそうな春木には壁を作ったまま、私は席を立った。

 
煙草なんて人生で一本も吸ったことはないけれど、こういうときは喫煙所が一番落ち着いた。
廊下のベンダーで缶コーヒーを買って、誰もいないベンチへと座る。

真ん中に置かれた灰皿には、たいして吸い殻が落とされてなかった。