私は視線を前方の車に移した。どこにでもいる白いセダン。

「今日?」
 
信号はまだ来ない。あまり車通りの多くない道を、走り抜けていく。

「そうね。今日」
 
派手なフルフェイスを被ったバイクが、私たちの車を追い越してゆく。

 
まるで他人事のようで、すごく現実的だった。
ふたりが精一杯の小さな車の空気はちっとも重くならなかったし、湿っぽくもならなかった。

ちらり彼を盗み見ても、前を見つめる瞳に水膜が張っているようにもみえない。鼻の頭も赤くない。顔色もちっとも悪くない。


「ないよりいいっていうのは、なくてもいいんだよね。やっぱり」
 
彼の言葉に無言で肯定する。つまり、そういうことなんだ。