事実、その顔はすごくよく出来た表情だ。映画やドラマよろしく、さりげなくモテる男のスマートな微笑み。
隣の同僚の頬には朱がさし、同時に歪んだものを瞳に浮かべていた。
 
まったく、反吐が出る。
仕事も遊びも出来る男には、私語を慎めと注意も出来ないこの部屋の一番偉い男にも。


「あるかなしかで答えが欲しいなら、あるんじゃないですか」
 
別段どうでもよい話題だった。

「あ、じゃあ彼氏いないんだ」
「いえ、一応いますけど」
「一応って。それにいるならなしでしょう」
 
たぶんこの男は、うちの会社のめぼしい女性全員と寝たいんだろう。ついこの間、受付嬢と噂が発生していたというに。

とりあえず私なんかより、うちの先日失恋したお局さまに声をかけるべきじゃなかろうか。恋を失ったばかりの女は脆い。
今ならたいした口説き文句も使う必要もなく、簡単に落とせるだろう。

もっとも、未だ同衾したことがないならば、だけど。