「了解っ。早く教えてっ」
ちゃらいんだよ、この男。
ノリがなんとなくついていけないんだよ。
なんかむかつく。
こういうの、無理。
なんでこんなのと夕飯食べてんだろ、自分。
そもそもなんで、こいつはあたしのアドレスが知りたいんだろ。
そして、携帯の赤外線を向け合ったとき、気づいた。
”あたしこんなウザいやつとメールすることになるの?”
「どうしたの、奏。早く」
急かすなちゃら男。
「すいません・・・」
仕方なく送信する。
項垂れながら、ため息をついて。
「じゃあね~」
アドレスを送ったあと、思ったよりおとなしく帰る日比谷。
意外だった。
もっとねばって家にいると思ってたから。
「日比谷さん、ほんとに奏のアドレスが知りたかっただけなんじゃない?」
「そうかなぁ・・・。葵、もしあいつが言い寄ってきて、そいで気持ちが傾いたら、行っていいんだよ、あいつんとこさ」
「なんで・・?」
「うん?あいつが”男”だからに決まってるじゃん」
そう・・。
ちょっとだけ限界あるって感じてた。
葵のことどんだけ好きでも、あたしは葵を完璧に幸せにしてやることはできない。
あたしの立場上も、法律上も、二人じゃ夫婦にはなれないし、子供だってもちろんできない。
葵が高校のとき夢に描いてたような家庭は、あたしじゃ築いてやれないから。
いつか離れなきゃいけない時がくるってことを、薄々気づいてはいた。
日比谷がそのきっかけになるなら、あいつが葵を完璧に幸せにしてやれるなら、それで問題ない。
でもあんな馬鹿な男、葵には似合いじゃないよ。
強がりなんかじゃない。
だって女子トイレに間違って入ってくるような男だよ?
そんなの無理。
葵を任せておけないから。