奏の曲が終わり、画面が切り替わる。
CMの後に現れたのは、美佳が楽しみにしていたもう一人のアーティスト。
一人、というより、ダンスボーカルユニット「Magunitude」。
4人組男性アイドルグループというところだ。
最近はよく耳にするグループだった。
世間の若手アーティストといえば、奏か、Magunitudeのどちらかであり、オリコンでもよく争うことのある二組だ。
「うわぁーっ、隼人、隼人ヤバい!!」
美佳の声に母親はあきれた目を向けつつ、皿洗いを終えてテレビを見る。
4人組の中にいる、ひときわ目を引く青年が、美佳の好きなメンバーだった。
”日比谷 隼人”-ひびや はやと―。
奥二重の切れ長の目に、筋の通った鼻、透き通るような声。メインボーカルにふさわしい要素をすべて兼ね備えた男だった。
おまけにノリが良くてバラエティーなんかにもよく出演するものだから人気は徐々に高まりつつある。
暗い茶色に染められた髪は少し根元が黒くなり気味で、そんなところを見ると親近感がわくような、そんな印象。
「ちゃんと染め直さなきゃだめじゃん・・。アルバム出すっていうときにさ」
ダメ出ししつつも美佳は隼人に見とれる。
曲中で、美佳はまた呼吸が止まってしまう。
目は隼人ばかりを追いかけるし、その歌声に酔ってしまうように感じる。
今日は美佳にとって幸せな日になった。
「そうだ、美佳。なんかさっきの奏っていう人、雑誌に写真が載ってたわよ?」
「え?雑誌?なんの?」
「今日買ってきてみたんだけどね・・」
番組が終わってから、美佳がもう一度奏の出演シーンまでビデオを巻き戻しているところに、母親が週刊誌を持ってきて、あるページで開いた。
「同性愛者だったなんて、お母さんびっくりしちゃった」
「はっ!?同性愛!?」
「ほら・・・」
そのページには、奏と、最近売れ始めているモデルの「葵」の姿。
二人はマンションの前で、唇を重ねていた・・・。
「嘘でしょ・・・」
その二人の片方は確かに、美佳が大好きな奏そのもの。
葵だって、美佳が毎月買っているファッション誌の専属モデルだった。
唖然とする美佳の後ろで、巻き戻された奏の曲のシーンが流れている。
今までスキャンダルみたいに、生臭い事実は聞いたことがなかった奏。
美佳のショックは計り知れなかった・・・。