「久しぶりだね」



「・・・はい」


あたしは日比谷の隣りに座る。
お酒飲む気なんてまったくなかった。


「この間は・・・びっくりしたね」



いきなり本題に入ってくる日比谷が恨めしく思われる。
だってあたしがそれを気にしてるの、わかってるのにあえて話題にもってくるなんて。
だったらあたしだって単刀直入に聞きたいことだけ聞いて帰りたい、そう思った。



「ネタ、週刊誌に売ったの日比谷さんじゃないんですか?」



まっすぐ目を見て言うと、彼は不敵に笑った。
その笑みに、どことなく彼の中に潜在しているサディスティックな部分を見た気がして、ぞっとした。



「ほんとに俺がやったって思ってるの・・・?」


「日比谷さん以外に考えられないから言ってるんです。あんなタイミングでバレるなんて、日比谷さんがやったって言ってるようなもんじゃないですか」


「それは俺じゃない」




冷静に目を合わせたまま返してきた。



「なんでそう言い切れるんですか?話ができすぎてるのに」



ここで日比谷なんかを責めたってもう葵とは一緒にいられない。
そんなことはわかっているつもりだった。
だけどこの人を前にすると、感情が抑えきれなくなる。


「俺がやるなら、もっと注意深くやるよ。自分がマンションに行った翌日なんかにネタを売るような真似をしたら、それこそ自分がやったんだって言ってるようなものだし」



日比谷は手元のグラスを一口煽った。
目を伏せると長い睫毛が揺れる。
よく見ると女みたいな顔してるんだ、とあたしは無意識にそう思った。




「それに、俺が住所を知ったのはマンションに行った日の朝だよ。怪しいと思ったらマネージャーに聞いてみなよ」



挑戦的な口調に言い返したくなったけど、何も言えない。
作田はあたしに嘘なんか絶対つかないから。


「お前らがキスしたのは、それよりずっと前のことなんじゃないの?」




最後の言葉にかぶせるように鼻で笑ってみせる。

冗談、言ってんじゃねぇよ。
あたしの中で何かがプツっと切れた。