葵は先に部屋を去った。
マスコミに住所がばれたからあたしも引っ越し準備を進めている。


仕事は相変わらず忙しい。
こっちのメンタルの状況なんて勿論無視なわけだけど、あの週刊誌に写真が載ったくらいから、仕事はなおさらに忙しくなっていた。



忙しくなればなるほどいい。
家に帰るのが遅くなれば、もう家には葵が待っていてくれないんだってことを思い出さずにいられる時間が長くなる。


仕事のことで頭がいっぱいになれば、寂しさも紛らわせる。
今は次に出す新曲の大詰めだった。



失恋を歌った歌詞は、自作。
半年くらい前から練ってきたものがようやく形になった。
デビュー以来、自分がシングルの作詞を手掛けるのは初。

なんだかくすぐったい気持ちとともに、やっと自分はアーティストになれたんだという気もしていた。



でも、家に帰れば思い出すのは決まって葵のことだ。
引っ越しに向けてだんだん片付いていく室内がなおさら切なくて、あたしは寂しくもやもやした気持ちを、写真を撮った犯人捜しに向けた。



答えが出るのはそう遅くなかったんだけど。





写真が載ったのは、日比谷隼人のせいだ。
あいつが現れてから良くないことが続いてる。



絶対に情報流したんだ。



まず作田に住所を聞いて、押しかける。
あたしたちを見て、付き合ってることに気づく。
それから、そのネタを雑誌社に売るために、アドレスをもらったらおとなしく帰るふりをした···。


辻褄が合いすぎるくらいに2つの出来事が繋がる。


二人でちゃんと話そうって日比谷が言ってから、1ヶ月あまりが経っていた。


そろそろ連絡があってもおかしくない。



待っても待っても来ないから、まさか事件の後でなかったことにされようものならたまったもんじゃないと思って、とうとうあたしは自分から連絡をとった。





『もしもし~?あ、奏?』



電話をかけると、呑気な日比谷の声が聞こえてくる。
時刻は夕方6時だった。
仕事の合間を見つけての電話。
どうやら日比谷の方は午後からOFFだったよう。



「もしもし~?じゃないよっ。ちゃんと話そうって言ってからもう一か月は経ってるんですけど」



『あ、そうだったね。どうする?俺、今日これからでもいいよ』



「あたしも仕事終わり次第大丈夫なんで、8時くらいからどうですか?」


『いいよ。じゃあ、場所は追って連絡するから!』