「信じられないよ・・・。前にも、あたしと喧嘩した時、男のとこ行ってたんだよね?本当は、あたしのことそんなに、好きじゃないんじゃないの・・・?」
「誤解だよ・・っ、あの時は他に行くところがなかったから仕方なく行っただけだし、葵のこと中途半端な気持ちでなんかないよ!・・」
「嘘だよ、そんなの・・」
テーブルに突っ伏す葵を後ろから抱きしめる。
頼りない細い背中を抱いて、何度も謝って、本当の気持ちを伝えられる言葉を探すけど、どれも言い訳にしか聞こえない。
「葵・・ごめん、ごめんね・・・。もっと注意してればよかった・・。最近葵の仕事が増えてきたでしょ・・?そのことにちょっとだけ、嫉妬してたんだ・・。葵と会えなくなったらどうしようって心配で・・・。
でも、これからは葵の未来を大事にしたいから・・・今は事実を全面否定するしか方法がない・・。そのためには、別れなきゃいけないんだよ・・」
肩の微かな震えが伝わってくる。
葵の嗚咽が少しだけ止んで、あたしはその髪を撫でた。
「あたしだって辛いよ・・・葵と離れたくない・・」
顔を上げ、今にも泣きだしそうな目で見つめる葵。
離れることしかできない自分の弱さ。
「奏・・」
掠れた声で呼んで、抱きついてきた。
それを抱きしめかえす。
「幸せになって・・・」
どうか、葵がもっと有名になりますように。
いい彼氏が見つかって、いいお嫁さんになれますように。
それをずっと祈りながら、歌うから。
いつかまた会ったら、「幸せだよ」って教えてくれたら・・・。
それならこの別れにも意味があるって思える。
今はただ悲しいだけ。
切ないだけ。