社長が出した条件は、葵と別れるなら、二人の関係は事務所が全面否定をする、というもの。
雑誌社に対してもしっかり対応するとのこと。



「今回みたいなことは、葵ちゃんにとっても今後に響くから」
と、社長はなだめるように言った。



あたしは、うなずくしかできなかった。
それ以外に、ほかにするべきことはない。


社長は間違っていないし、これからどうするかはあたしにかかってる。
確かに愛をつらぬくのもいいかもしれないけど、葵には葵の未来があって。



少し前から思っていたことが、また頭の中をよぎる。



あたしなんかじゃ、葵を完璧に幸せにしてあげることはできない。
葵には普通に結婚して、幸せな家庭をもってほしいから。



作田の車の中で、あたしは決心した。
何年も続いたこの関係を終わらせる時がきたんだって。



「作田、今日はありがとうね」


「いいんです。これがマネージャーの仕事なんだから」


帰り際、作田の今日一日のフォローにお礼を言って、マンションに帰った。





「お帰り、奏」


いつもと変わらない、葵の笑顔が迎えた。
さっき帰宅したばかりなのか、春らしい薄手のワンピースを着ていた。



ぎゅっと抱きしめて、ただいま、とこたえる。



この瞬間が、もう来ないなんて・・・。




「葵、話したいことがあるから・・よく聞いて?」


「なに?」



テーブルの席について、あたしは車の中で決心したことを、葵に話した。
大きく息を吸って、葵の目を見つめて、一言、謝ってから。



「ごめん・・・っ」


「えっ?なに?」




「マンションの前で二人でいるところを・・週刊誌に撮られちゃって・・。ほんとに、注意不足だった・・。今日、事務所から緊急の呼び出しがあって、社長と話してきた」



「嘘・・・。でも、まさか付き合ってるなんてことはわからないでしょ?ルームシェアしてること、社長さんに言ってなかったから、事情の説明だけしてきたんだよね・・!?」



信じたくない、という葵の声が胸に突き刺さる。



「ううん・・・。その・・決定打っていうか・・週刊誌にも、二人は付き合ってるんじゃないかみたいなことが書いてあったから・・それでみんな大騒ぎで・・」



「奏・・?」



「葵、別れよ・・・?」



「別れるって・・バレたからって終わりなの!?そんなにあたしのこと、中途半端に思ってたの・・っ?」



「違う・・っ」



大きな目から、涙をぽろぽろ零す葵を見てられなくて、思わず目をそらす。
そのことがまた、葵の不安を煽って・・・。




「信じられない、奏・・」