社長室には、社長と、チーフマネージャーがいた。
デスクの上には、あるページで開かれた雑誌が逆向きに伏せてあった。
「奏。説明してくれるんだね?」
優しげな声で、社長が言う。
「はい・・」
少し後ろには、作田が立っていた。
いつもより地に足がついているみたいに見える。
振り向いて目を合わせると、頑張れ、というように頷いてくれた。
「あたしは、雑誌専属モデルの葵さんと、付き合ってます・・。二人でルームシェアし始めたのはデビューが決まってからでした。
付き合い始めたのは、高校卒業して引っ越してからです。ずっと隠してて、すいませんでした・・・」
深々と頭を下げる。
付き合ったことにじゃなく、ずっと秘密にしてたことに対しての、謝罪。
「奏、頭上げて」
言われたとおりに頭を上げると、思ったより穏やかな、中年男性の顔があった。
「よくここまでスキャンダルなく活動続けてくれたと思ってた。まずはそのことをほめたいよ。
二十歳超えて遊びたい時期のはずなのに、レッスンにも真面目に通うし、誠意があって謙虚で、いろんな業界の人たちから絶賛されてるんだよ。」
「そうなんですか・・?」
「そうだよ。作田、ちゃんと伝えなきゃだめじゃないか」
「はい、すいません・・」
作田の伝達不足をたしなめ、社長はさらに続けた。
「それに今まで隠してたのは、葵ちゃんを守る為でもあったんだろう?私たちに関係が知れたら、葵ちゃんの活動に影響が及ぶこともあるだろうし」
あたしは静かに頷いた。
隠してたのは、確かにそのこともある。
自分のためでももちろんあるけれど、作田や、社長も、ファンとして支えてくれてる人たちの為にも、必死で隠してきた数年間だった。
「それはすごいことだと思うよ。よくやったこれたな。でも、これはあくまで私の一人の人間としての考えだから。社長としては、これ以上話を広げない方がいい。しかも住所もばれてるみたいだから、引っ越してもらわないと困るよ。それから・・・」
社長は少し間をおいた。
何かと葛藤しているみたいに、あたしを見つめていた目を床に落とし、小さく息を吐いた。
「葵ちゃんとは、別れてほしい」