コイツは、一歩前に出て
スーッと息を吸って、止めた。
そして空を見上げた。夕焼け。
オレンジのこの空。



「その目で見てきたんだな」


俺の声に答えるように、
スクールバックを背負いなおした。



「その手で触れてきた。
その耳で話をきいてきて、
その口で話をしてきた。

だろ?


お前の事語れるような
壮絶な人生じゃねーんだ。
大学病院前の後継ぎだし、
そんなボンボンの兄ちゃんだ。

俺は精一杯粋がってる。



でも、感じたんだ。
誰かの笑顔が声が拍手が
笑いの波動になって
俺にぶつかって来た。
すんげぇ心地よかった。

お前といたから感じたんだ。
お前がいたから。」




俺は一歩前に出て、
また扉に並んだ。



「その目で その手で
その耳で その口で
その心で俺と一緒に、
行こうぜ。これからは。」






扉の顔を覗くと、泣いていた。