帰り道
俺の自転車の後ろには、
コイツがいた。
ニケツして帰る夕暮れ。
「今日は楽しかった〜!」
「そうか」
「はじめてだ!
こんなに笑ったのは」
「いつもあんな感じじゃないの?」
「ちゃう。」
「いつも友達に囲まれて
人気者って感じだけど?」
「俺、友達おらへんし」
「は?」
冗談だと思った。
友達がいない訳ないだろ。
このエセ関西人(向坂扉)に
「降りるわ」
「へ?」
「じゃあな!」
チャリからすっと飛び降りると、
逆方面に歩いて行った。
…お前ん家どこなんだよ
「おい!待てよ!!
まだここの土地感覚ねぇだろ?
1人で帰れんの?
いや、俺悪いこときいた?
ごめんな。」
俺はチャリの方向を、
ガチャンと扉の向きにして、
走って隣に追いつくと
「ろくに学校行けなかったんだよ。」
「え?」
コイツは話し始めた。
「父子家庭で、」
「父子家庭…」
「父親が薬中だったんだよ
俺が小4の時に。
働かなかったんだ。
朝昼晩って寝てて、
時々女連れてきて。
俺には傷ばっかりつけて。
でもお金が必要で、
薬の運び屋してた。
学校に行かないで、
ランドセルん中には
粉とかハッパとか注射器
ばっかり入ってて、
見知らぬ大人に渡してた。
それが俺の仕事で、
家に金いれてた。
その間も親は遊んでた。
もちろん、
学校なんか行けなかった。
友達もできなかった。
中1の時、父親は捕まって
俺の目の前で死んだ。
俺は中2の春に、
はじめてまともに
学校に行くようになったけど
まったく勉強なんて分からなくて。
友達には変な噂まわって
先輩には目つけられるし、
先生にもさけられるし、
だから勉強ばっかりしてた。
この学校入って
変わってやるって思って」