次の瞬間、テグレンは迷いのない晴れやかな顔で、

「イサがマイを連れていくって言うのなら、私もあんた達に着いていく」

マイは驚き、

「テグレンの足じゃ、着いてくるなんて無理だよ。

自分の家はどうするの?

それに、私はまだ行くとは言ってないよ……」

「マイ様。我が国はあなたの魔法の力を必要としています。

我が国はずっとあなたを探していました。

あなたの力があって初めて、我が国は十二分(じゅうにぶん)に力を発揮できる……」


マイは悩んだ。

正直、今の実力以上の魔法を勉強するためには、この土地に留まっていることは不便極まりない。

手に入る魔法書の種類も限られるから。

そう思い、今までに引っ越しを考えたこともあるが、住む場所のアテもないから転居も難しい。

実力不足の自分には旅や修業も無理に決まっている、と、とっくの昔にあきらめてしまっていた。

マイが思考を巡らせていると、テグレンが憂(うれ)いのない表情で言う。

「マイ。私はね、さっきあんたが街の奴らに襲われたって聞いて、ここへ引っ越そうって思ったんだ。『家なんて引き払えばいい!』ってね。

……あとね、あんたにはずっと黙ってたけど、私の足は完全に治ってるんだ」

「えっ、治ってたの?

なら、どうして今まで薬買いに来てたの?」

マイは目を丸くする。

「私が渡した薬代を、あんたの生活費の足しにしてほしかったんだよ。

足が悪いフリをすれば、助けてあげられる。

あんたの薬の調合は完璧で、すぐに治ったさ。優秀な才能だよ。

でも、それじゃあ稼ぎも限られて生活は苦しいだろ?」

「そんな……」

「直接あんたにお金を渡してもよかったけど、甘え下手なあんたは断るだろうと思ってね」

テグレンはマイの頭をポンポンと優しくたたいた。

「護衛と言えど、俺はマイ様と初対面同然の身。

マイ様のことをよく知ってみえるテグレン様にも一緒に来て頂けたら助かります」

イサも頭を下げた。

「その話し方やめな」

と、テグレンはイサに笑いかけ、

「ずっとそんな口調じゃ、疲れるだろ?」