相手が何者かは分からないが、魔術師であるのはたしかだ。
強力なオーラを感じる。
見えない敵との戦闘を想定し、エーテルはテントを保護しつつも、そこから距離を取った。
強い風が吹き付ける草原の中央まで、じりじり歩みを進める。
「誰?」
エーテルは、見えない敵に訊いた。
姿を現さない敵ほど、やりにくい相手はいない。
エーテルが首の動きだけで辺りを見回すと同時に、夜闇よりも黒い衣装を着込んだ男が、空に撒(ま)かれた粉のように現れた。
「あなたは……」
男の名はフェルト。
マイとの旅が始まってから、何かと姿を現す男性魔術師。
エーテルは、素性をあらわにしない彼に警戒心を持った。