それから数日後の夕方。

「テグレン、今日は来なかったなぁ……」

少し物寂しさを感じつつ、マイは閉店準備に取りかかった。

店先に《また明日お越しください》というプレートを立てかけ、売れ残りの魔法薬を倉庫にしまいにいこうとしたその時、

「魔法薬売りの魔女さんがいるのは、この家かなー?」

冷やかしを含んだ中年男性の声とそれを囲むような数人分の気配がして、マイは後ろを振り返る。

ヒゲを生やした中年男を真ん中に、閉店を示す看板を無視して店内に押し入る数人の大人の男。

「もう店閉まいなので帰っていただけませんか。ごめんなさい」

微笑をたたえつつもキリリとした声色でそう告げるマイに、一人の男が近寄り、

「悪く思うなよっ」

セリフと同時に鈍い音が部屋中に響いた。

「うっ、ぐうぅ……」

マイに詰め寄った男が、壁際まで吹き飛ばされ腰を抜かしている。

「お前、いま何をしやがった!?」

偉そうにしていた中年ヒゲ男が、マイに向かって声を荒げた。

「先に手を出したのはそっちでしょ」

マイは瞳の奥に怒りを閉じ込め、一同を睨みつけた。

彼女は自分を守るため、未熟ながらも空気を動かす魔法を使い小さな気泡を作ると、勢いよく男にぶつけたのだった。

マイの気迫にひるんだ一人が、後ずさる。

「やっぱり、俺達じゃ無理ですよ。

普通の人間が魔法使いを捕まえるだなんて……」

「私を捕まえてどうする気?」

マイは気丈に尋ねる。

「君がいると困る大人もいるんだよ。

魔法薬、だっけ? それのせいで病院の経営が右肩下がりでね」

「そんなの知らないっ。私は生きていくために働いているだけ……。

私の薬より病院での治療を選ぶ人だっている。

経営悪化を人のせいにしないで」

「ふん。減らず口叩きやがって。

しょせんガキだ。力ずくでなんとかしろ。

こいつを捕まえたらたんまり金が入るんだ。やっちまえ!」

中年ヒゲ男の命令で、男たちは切っ先の鋭い槍(やり)をマイに向ける。

四方八方からやってくる鋭利な気配に、マイは立ちすくんだ。

“どうしよう! 広範囲向けの攻撃魔法は、まだ使ったことがないのにっ……!!”