最近、テグレンには心配事があった。

「マイ。しつこいようだけど、夜は必ず鍵をかけてね。

知らない客は無視するんだよ?」

と、マイに口うるさいくらいに戸締まりの注意をしていた。

「わかってるよ」

マイは笑顔であきれたようにうなずく。

「本当なら私んちへ来て、一緒に住んでほしいんだけどね。

あんたを1人にしておきたくないんだよ」

「またその話?

テグレンに迷惑かけたくないし、第一、店を離れるわけにはいかないから。

留守中誰かに忍び込まれて、この薬を悪用されたら困るもん」

テグレンはため息混じりに「もう」と肩を下げ、しぶしぶといったようにマイの家をあとにした。


最近、テグレンの住むオリオン街には不穏な動きがある。

街のほとんどの者は、マイを頼り尊敬しているが、そういう者ばかりではない。

マイの魔法の能力を商売のための道具にしようと企(たくら)んだり、

その能力を解析して、街の……いや、世界を操る力を手に入れようと考える身勝手な科学者達が存在する。


テグレンは街の情報通だ。

人柄が良く誰からの信用も厚いため、いろいろなところからそういった情報が手に入る。


他にも、街の病院の関係者がマイの治癒魔法の力を邪魔に思っているという穏やかでない話もある。

そのうちマイに危害が及ぶのではないかと、テグレンは不安で仕方なかった。

足の調子がいい日は毎日のようにマイの家に行き、薬を買わない日も、テグレンは雑談をしたりしてマイの傍(そば)にいられるように心がけている。