マイは、少年の先祖にあたる。

少年にとってマイは、自分に異能の力を授けてくれた大切な存在であり、命の恩人でもあった。

この未来予知能力が無ければ、少年の両親は、今頃この世にいなかっただろう。

数年前、少年の住む国に大勢の夜盗が現れた。

彼らは、国民を皆殺しにし金品を奪おうと考えていたようだが、少年が事前にそれを予知し国民を避難させたことにより、国民は物を盗まれただけで済み、多くの命を危険から守ることができたのだ。



――――少年は手帳をしまい、イサの墓を見つめた。

“マイ様とイサの想いは、今ようやく、ここでつながったんだって思っても、いいよな……?”


突然、フラッシュバックのように鮮明な映像が、少年の頭の中に流れ込んできた。

あたたかみある木造の一軒家。

雑貨屋を彷彿(ほうふつ)とさせる建物の中で、ブロンドの髪をした少女が寂しそうにため息をついている。

すると、店先に、ヒゲを生やした中年の男と、付き人らしき数人の男が立ちはだかった。

「もう店閉まいなので帰っていただけませんか。ごめんなさい」

毅然とそう告げる少女に、彼らは突然攻撃をしかけた。

――「よってたかって、いい大人が女性相手に汚いやり方してんじゃねーよ」

横から、怒りに満ちた茶髪少年の声。

剣を手にした茶髪少年は、ブロンド少女を傷つけようとしている中年ヒゲ男の足首に、剣で素早く切り込みを入れた…――。


「……何だったんだ? 今の……」

少年は夢から覚めた時のように辺りを見回したが、いくらそうしても、もう何も起こらなかった。

自分の中に眠る魔法使いと神の能力で、イサとマイの出会いの場面を見たなどとは微塵(みじん)も思わず、

「イサ。また来るから。ありがとう」

墓石に声をかけて、少年はその場を後にした。