少年は手帳の最後のページを開く。
そこには、イサの記したものより丁寧な文字でこう書かれていた。
《マイ様。出過ぎた発言かもしれませんが、もしあなたがこの手帳を読むことがありましたら、イサの墓石に顔を出してあげて下さい。
かつてあなたが住んでいた“あの丘”に、イサの墓はあります。
旅の最中、彼は、治癒が難しい流行り病にかかりました。
弱っているところを強力な魔物に襲われ、体調が万全でなかった彼は抵抗できず、19歳という若さで尊い生命を失いました。
病にかかっても、彼は最後までコエテルノ·イレニスタの財力や、我々の力に頼りませんでした。
あなたの心を守ると決めた彼の旅立ちの意は、決して半端なものではなかったのです。
あなたが幸せならば、我々も嬉しいです。
私は、イサとあなたが作り上げたこの国を、生涯大切に守り抜くことを誓います。
フェルト》
歴史上、初代国王とされているフェルトの手記。
少年はこれを見て、自国に語り継がれている剣術師·イサが、マイを大切に思っていたことを知り、コエテルノ·イレニスタの国民になりたいと思ったのだ。
コエテルノ·イレニスタは、イサとマイが力を合わせて作り上げた国。
これが歴史の真実なのに、多くの人はそれを知らない。
フェルトはイサの意思を尊重したからこそ、あえてそのことを歴史に残さなかったのだろう。
また、特殊な封印魔術で手帳を隠したのがフェルトだと考えれば、つじつまが合う。
フェルトは、魔法使い(マイ)の血に反応して手帳が現れるような封印をほどこした。
わずかながら少年の体に流れる魔法使いの血が、一千年の時を経て、その封印をとくこととなった。