手帳を読み終えた少年の頬には、涙が流れていた。

それは、イサの旅日記だった。

少年の先祖·マイ。

魔法使いの彼女と共にコエテルノ·イレニスタ王国を作った剣術師·イサ。

何も告げず城からいなくなったマイを探し求めて、イサは生涯を終えたそうだ。

どんな歴史書にも残っていない、ただひとつの真実が、この手帳に詰められている――。


イサは、表の歴史書ではまれに《コエテルノ·イレニスタの初代の王だった人物》と表記されているが、フェルトが初代国王だという伝説の方が強力であり、実際、イサ説よりフェルト説を信じる人間の方が多い。


手帳を読み終えた少年は、自分の国の後継ぎになるのをやめ、コエテルノ·イレニスタ王国に移住することに決めた。


手帳は、特殊な魔術で封印されていた。

ゆえに、一千年もの間、誰にも見つかることなく存在していた。

少年が訪れるまでは……。

“もし失くなっても、誰も気付かない……よな?”

少年は、他国での窃盗行為に多少の罪悪感を感じながらも、見つけた手帳を丁寧な手つきでバッグにしまい、書庫を後にした。

その足でコエテルノイレニスタ王国の空港に行き、2時間ほど飛行機に乗ると、オリオン街と呼ばれる街を目指した。

手帳の内容にウソが無ければ、イサの墓は、オリオン街付近に位置する小高い丘の上に建てられているはずだ。