最終的に、テグレンはイサを見送った。

テグレンはイサがたどった道を戻り、城を目指した。

こんなに長距離を歩けるのは、マイが残していった魔法薬のおかげである。

最後だからか、一生かけても使い切れないくらい、大量に置かれていた魔法薬。

“いったい、どんな気持ちで魔法薬を残していったんだい?”

テグレンの目には涙がにじむ。

『マイのそばにいることで、彼女を差別の目から守ってあげたい』

そう言い旅立とうとするイサを、テグレンは引き止めることができなかった。

“私も、マイを傷つけていたかもしれないんだ。

ううん。絶対傷つけたに決まってる……”

テグレンは、自分の娘が魔法使いの男と結婚するのを反対した過去を持つ。

結果、娘は黙ってテグレンの元を去った。

娘がテグレンに反発したのは、好きな人との結婚を祝福してもらえなかったからではなく、テグレンが魔法使いという種族を差別し、特別な目で見ていたからなのだ。

テグレンは、今になってようやく、そのことに気付いた。


――――いなくなった娘の代わりとでも言うように、あの丘でマイと出会った。

マイは、テグレンが内心受け入れられなかった《魔法使い》。

にも関わらず、娘がいなくなったことでぽっかり開いた心の穴を、マイといることで埋めることが出来た。

“娘が離れてゆく前に、マイと出会いたかった……。

ううん、違う。

……私が悪いんだ。

魔法使いの本質を知ろうとせず、あの子とマイを傷つけた”

テグレンは心の中で、亡き娘·エリンに謝った。


人間界に広がる歴史書には、こう記されている。

《魔法使いは世の中に不幸を呼ぶ、危険な種族である。

関わりを持ってはならない。》

確かめようのない昔話を鵜呑(うの)みにしてしまった昔の自分を、テグレンは心底恥ずかしいと思った。