“マイ、無事でいてな……”

あちこち探し回る前に、マイが住んでいたあの丘へ向かおう。

イサはそう決め、草木で染められた地平線をながめた。

向こうから、顔見知りが駆け寄ってくる。

マイを探すため、先に城を出ていたテグレンだ。

「イサ! あの街にも、マイはいなかったよ!

その辺の人にも聞いてみたけど、誰も、それらしい女の子は見なかったらしい……」

彼女は息切れで肩を揺らし、西の方向を指さした。

テグレンが示すのは、ここから歩いて1時間ほどで到着する小さな街だ。

「やっぱり、マイはそこにもいなかったんだな……」

「やっと平和になって、これからだっていう時に、どうして出て行っちゃったんだろうね……。

イサなら、今頃あの子を見つけてくれてるんじゃないかって思ったんだけどさ」

体力を消耗したとは思えないほど、テグレンは早口になる。

感情的な強い口調は、マイを探し出せなかった焦りから来るものだろう。

テグレンを落ち着かせてから、イサはゆっくり口を開いた。

「これから俺は、マイを探しに全世界を回る。

テグレンは城で待っててくれ。

必ず、マイと一緒に帰るから」

「全世界!? 一人で行く気かい?」

テグレンは興奮気味に言った。

「この辺を歩くだけなら、まだいいかもしれない。

でも、危険な場所もたくさんある。

森や沼地には、魔物も多い。

いくら剣術が出来て一般人より強いとはいえ、イサ一人じゃ危険すぎるよ!」

テグレンは、本物の息子のようにイサの身を案じる。

「大丈夫。剣術は元々、軍隊を離れて一人になっても戦い抜くために生み出された技。

きついと感じたら、無理せず城に帰って休む。

心配はいらない」

テグレンを安心させるため、イサは嘘をついた。

マイを見つけるまでは、コエテルノ·イレニスタに戻る気など、さらさらない。