「エーテルも、魔法使いと人間が共存する世界を望んでいた……?」

エーテルは口数が少なく、普段から何を考えているのか分からないところがあった。

そんな彼女の心の奥は、イサと同じだった。

手紙を持つイサの手は、震えていた。


《国の命令に背いた私は、ルーンティアの者の手で処罰を受けることになるでしょう。

そんなことで時間稼ぎになるとは思えないけど、イサに築いてほしい。素晴らしい国を……。


マイを守れるのは、あなたしかいない。

二度と、悲しい歴史を繰り返さないで……。


あなたとマイが、昔の幸せを取り戻せることを願って。》


「…………」

エーテルの想いを知り、イサは固まった。

紙面に乗せられたエーテルの文字は、役目を終えたマメ電球の光の様にあっけなく消えた。


ただの黒と化した紙をそっとテーブルの上に置き、窓を開けて、イサは外に広がる王国の敷地を見渡した。

緑の葉をふんわりとつけた木々たちは、青い空の下でひときわ碧(あお)く見える。

遠目に見える横長な山のふもと。

野菜と茶葉の畑が生き生きと風を受け、鳥たちもこの世の悪を知らないような鳴き声を出して軽やかに羽ばたいている。

“エーテルに、この景色を見せたかった……”


エーテルの願いは、イサの本心を浮き彫りにする。

「……俺は……。マイに会いたい」

マイを探すために旅をしたいという意思が、今ようやく、揺るぎないものとなった。