フェルトはイサの正面に立ち、震える彼の肩に両手を置いた。

「リンネさんは、実の母·エリン様を、魔法使いと剣術師の争いで亡くしています。

ヴォルグレイトさんの妖術に操られていたとは言え、ガーデット帝国の兵士の手によって母の命を奪われたのです。

その戦が起きたのは、エリン様が魔法使いの男性·レイナス様と結婚したせい……。

リンネさんがそう考えていても、不思議ではないでしょう」

フェルトがヴォルグレイトを「ヴォルちゃん」と呼ばないのは、真剣な話をする時。

イサはそれを知っていたが、フェルトの言葉を素直に聞けなかった。

「リンネは、自分が魔法を使えないことに劣等感を持ってる。

マイを無事に連れて帰ってくることができたとしても、そしたら今度は、イブリディズモであることを嫌悪してるリンネがここを出て行ってしまうかもしれない。

マイとリンネは、永遠に仲良くなれないかもしれないんだ……」

イサの思考は深みにはまり、どんどんマイナスに傾いていく。

フェルトはそれにめげず、落ち着いた口調で語りかけた。

「それがどうしたというのです?

イブリディズモの心の葛藤。昔は当然のことでした。

リンネさんにはテグレンさんがついています。

でも、マイさんは、このままだと一生孤独になる。

あなたはそれでいいんですか?

そんなことでマイさんとの再会をあきらめられるのですか?

亡くなったエーテルさんが、それを喜ぶとでも?」