ろくに咀嚼(そしゃく)せず、リンネはクッキーを飲み込んだ。
「……リンネっ!!」
イサの制止は無駄に終わった。
クッキーはリンネの胃の中に落ちていく。
「これで、イサは私のもの……」
リンネの目は据(す)わっている。
イサは一歩後ずさり、目をこらして彼女の様子を見ていた。
窓から吹き込んでくる穏やかな風が、次々と悪いことを呼び寄せるのではないか、と、錯覚しそうになる。
クッキーの効力が確実なものなら、リンネの恋が叶い、イサはリンネに想いを寄せるようになる……。
「イサ。私は、マイちゃんなんかと出会いたくなかった。
イサとエーテルと私、3人で、ずーっと仲良くしていられれば、それで良かった」
「俺だって、エーテルには生きててほしかった!
でもっ……。クッキーの力になんか、負けない……!!」
クッキーの効力なのだろう。
イサの抵抗もむなしく、彼の全身は淡い桃色のオーラで包まれはじめる。
生まれたての朝日のまぶしさを消すかのように、部屋中にはピンクの光が満ちた。
「嫌だっ……! 俺は、マイへの想いを忘れたくない!!
嫌だぁ!!」
「……ふふっ。無駄だよ、イサ。
マイちゃんは優秀だもん。
彼女が作る魔法薬は必ず効くって、評判だったよね。
いま初めて、魔法使いに感謝したよ」
リンネは片頬を上げてニヤリと笑った。