どうしてリンネがそんなことを言うのか、イサには理解できなかった。

イサには兄弟がいないけれど、もし自分に生き別れた身内がいたら、相手との再会に感動して、二度と離れたくないと思うだろう。


「リンネ……。世界中のみんなが魔法使いを嫌っても、リンネだけはマイの味方でいてあげてほしいんだ。

リンネは覚えてないかもしれないけど、昔マイがアスタリウス王国にいた頃、リンネとマイは仲良しだったんだ」

リンネはかみつくような表情で荒々しく言った。

「姉妹だからって、必ず仲良くしなきゃいけない!?

私には昔の記憶なんてないもん。

簡単に消えちゃう程、たいしたことない思い出だったんだよ。

たとえ覚えてたとしても、マイちゃんと仲良くするなんて、私には無理……。

だって、私はイサのことが好きだったんだから!

エーテルもそうだったんだよ、昔からイサのことを見てた!

なのに、エーテルは自分の気持ちを殺して、任務だからってマイちゃんを守って、イサに協力して……。

……私はエーテルみたいにいい子にはなれない。なろうと努力したけど、出来なかった。

イサと一緒にいるマイちゃんを見て、邪魔者にしか思えなくて……。

イサを置いて出ていくくらいなんだから、マイちゃんはひとりでも平気だよ。

魔法使いはなんでも出来るんでしょ?

だったら、イサがいなくたって、マイちゃんは幸せになれるに決まってる。

マイちゃんのことなんか忘れて、私のことだけ見てよ。イサ……」

「そんな……」

知らなかった事実を突き付けられ、イサの思考は停止した。

ショックだった。

リンネだけではなく、エーテルまでもが自分を想っていたなんて話も、すぐには信じられそうにない。

すきを狙い、リンネは乱暴な手つきでイサの上着の胸ポケットをまさぐった。

一瞬のうちに、イサからクッキーを奪う。

「リンネ……! ダメだ!」

リンネは身をよじってイサの手から逃れると、彼に背を向けた。

イサの視線にクッキーを映さないよう前屈みになったリンネは、胸元で素早く包みを開け、クッキーを口にした。