ルークは一度深呼吸をすると、年表を朗読するかのように無機質で丁寧な口調でこう告げた。
「マイは魔法の力を失った。
だからもう、イサに力を貸すことができない。
この国のためにしてやれることが何もない。
だからこの地を去る。
マイはそう言っていた」
イサは手のひらに爪が食い込むくらい、強い力で両手をにぎりしめた。
「そんな……!!
俺はマイに魔法を使わせるために国を作ったわけじゃない……。
でも、建国のためにたくさん魔法を使わせてしまったことはたしかだ。
それでマイを追い詰めてしまったのなら、それは俺のせいだ!
俺が夢を語ったせいで、マイは……」
「イサのせいじゃない。
マイは、イサのために魔法を使ってコエテルノ·イレニスタ王国を建国したことに悔いはないと言っていた」
「そうだとしても!
何でいなくなっちゃうんだ……。
魔法の力を失っても、俺にとってマイは、そばにいてほしい人に変わりないんだ!
一生、一緒に生きていきたかった!
マイにそう伝えてくれ……。
ルークは知ってるんだろ? マイの居場所を……」
「悪いけど、マイの居場所は知らない。
僕も行き先を訊(き)いてみたんだけど、彼女は答えてくれなかった。
でも僕は、君の願いを叶えることができる」
ルークはそう言うと、手のひらに持っていた一粒のクッキーをイサに見せた。
透明な包みの中に入っているのは、こんがりキツネ色に焼けた、ナッツ混じりの丸い形をした焼き菓子。
封を切ったら、甘い匂いが漂ってきそうだ。