イサとマイは、フェルトとレイルの視線に気付かず、花壇の前で話をしていた。

鼻孔いっぱいに広がる柔らかい花の香りは、マイの胸をさらに苦しめた。

「……黒水晶が壊れたってことは、アルフレドやグレンは、もう……」

全てが落ち着いた今、様々なことをゆっくり考える時間が与えられた。

マイは、建国のために力を尽くし、目の前の忙しさに集中して痛みの感情から逃げていた。

トルコ国跡地に城を建て、城を囲むように街を作り、海には港を設け、ようやく国としてスムーズに機能するようになった。

1年が経った今、ようやく全てを受け止める心の余裕が生まれ始めていた。


黒水晶が自然の神達を実体化させるための石だったというのなら、黒水晶が壊れた今、自然の神達は肉体を失ったということになる。

彼らはこの風に溶け込んで、世界のどこかで漂いながら生きているのかもしれない。

目に見えない生命体だから、それすら確かめようがない。


「この空気は、風の守り神ルークが。

花を生かしてくれる土は、リジェーノが。

私たちの生きる世界を綺麗に色付けしてくれる木々は、アチェレータが。

食事をするのに欠かせない火と水は、グレンとアルフレドが、大切に育ててくれてたんだよね。


もう、会えないのかな……。みんなに……。


ルークとリジェーノとアチェレータにも、直接会ってお礼が言いたかったな……」

マイはしんみりした面持ちで、花壇の花の花びらに触れた。

元気を与えてくれる黄色。

マイの涙が、そこに一粒、静かに落ちた。