デスク業務の合間。
レイルは、横の机で書類に目を通しているフェルトに問いかけた。
「フェルトさん。ここでの生活も悪くないかもしれませんが、本当にこれで良かったんすか?
俺達はトルコ復興のために動いてたのに、結局はイサに力を貸すことになって……。
トルコの跡地は、この国の民達……元ガーデット帝国の人間達が住むための土地になってしまって。
本来の目的が、全然達成されてませんよ」
コエテルノ·イレニスタ王国は、かつてトルコ国のあった場所に建国された。
「『どこで何をするのか』が重要なのではなく、『今どんな気持ちで生きているか』。
幸せを感じられる瞬間が、過去ではなく現在にあるのかどうか。
イサりんとマイさんを見て、私はそう思ったんです。
それは、当たり前のようであってかなり難しい。そして、大切なことです。
トルコ国を……帰る場所を失くして以来、各地をさ迷い歩いた身としては、この平穏な日々に体がうずいたりもしますが、こういう生活もなかなか良いものです。
不可能を可能にするのは魔法ではなく、愛の力なのかもしれませんしね~」
フェルトは相変わらず楽観的な口調で、書類に印鑑を押した。
2人の背後に位置する出窓。
その向こうには、テグレンとリンネをはじめ、国民達によって作り上げられた広大な花壇が広がっている。
暗い歴史を忘れたがるかのように咲き誇る、複数の鮮やかな花。
それらの香りは、風に乗ってフェルトとレイルの部屋にも届いた。
「あ! サボってる人発見」
フェルトはイスを半回転させ窓際にヒジをつくと、視線の数メートル先にあるふたつの男女を見て言った。