エーテルの魔術により、リンネにも記憶封印の術がほどこされているとイサは思っていた。

しかしそうではなく、リンネは彼女自身の意思で、自分の記憶の一部にフタをしたのだと思われる。

エーテル亡き今も、リンネは過去を思い出していないからだ。

イサは自嘲(じちょう)気味につぶやいた。

「当然だよな……。

両親が亡くなり、姉もいなくなって……。

幼かったリンネの心は、無意識のうちに、目の前の現実を否定したんだ」


リンネに過去の記憶がないと知り、マイは安堵(あんど)した。

「よかった……。リンネにだけは、こんな想いさせたくない。

何も知らずに、人間として生きてほしい。

もう、誰にも利用されることなく……」


しばらくの間、沈黙が3人を包んだ。



「…………イサ様、私は席を外します」

セレス王妃は、部屋を出て行った。