人間に心を閉ざした魔法使いだけの国。アスタリウス王国。

月日が流れ、昔の苦い経験を語る者がいなくなったため、魔法使い達自身が、閉鎖的な自国のあり方に疑問を持ち始めたのである。


アスタリウスの隣に位置するガーデット帝国とルーンティア共和国は、永遠の平和を願う人間で溢れていた。

ふたつの国は、魔法使いの住む国が傍にあると知りながら、その超常的な能力に頼らず、剣術と魔術を会得していた。


レイナスが人間の女性·エリンを好きになったのも、魔法使いが人間との交流を深める大きなキッカケになった。

ただ、レイナスは、代々アスタリウス王国の秘宝として受け継がれている黒水晶が、欲望に踊らされた人間に狙われていることもよく知っていた。

黒水晶。それは、人の願いを叶えるために作られた物ではない。

願望を叶える効力もあるが、それは人間のためを思って付与された力ではない。

魔法使いという種族のために用意された、切り札的なアイテムだったのだ。


幼少時代から賢かったレイナスは、黒水晶を魔法使い以外の手には触れさせてはならないと察し、大切に保管していた。

交流していた人間のうち、何者かが黒水晶の存在をかぎつけたことを知ったレイナスは、娘·ルミフォンド(マイ)の中にしかけをほどこして、黒水晶を封印したのだった……。

『この子が激昂(げきこう)しない限り、この封印は一生解けない。

ルミフォンド、お前なら大丈夫だよな?』