それが世界情勢を大きく変え、歴史にも深い影を落とした。


最後まで慈悲深かった魔法使い達は、人間に襲われても抵抗しなかった。

魔法使いはどんどん滅びていく……。

一部の魔法使いは生きたいと願い、人間の攻撃から逃れた。

逃げ延びた彼らは「人間の世界に干渉してはならない」と学び、そっとその地を去ったのだ。


アスタリウス王国は、人間との共存をあきらめた魔法使い達が長年かけて築いた国――。

『私たちが人間社会に関わると、人々は争い、派閥を作る。

なら、私たちだけでひっそり暮らしましょう。

せっかくこの世に生まれたのだから、穏やかに生きたいものだ』

アスタリウスを建国した祖先はそういう想いを抱き、魔法使いのためだけの国を築こうとした。

そんな時、全てを見ていた自然の神たちが魔法使いに力をかしたいと考え、彼らの前に現れたのである。

『人間たちに存在価値がないとは言わない。

だが、これでは、魔法使い達があまりに不憫(ふびん)だ……』

自然の神たちは互いの力を分け合い、《黒水晶》という名の石を作って、魔法使いを束ねる長(おさ)にそれを渡した。

『これの誕生と共に、我ら自然の神は実体を持った。

人間と同じような姿でこの世を巡ることができるようになったのだ。

いざという時は、これを胸に当てて念じてくれ。

そうすれば、黒水晶はいつでも、そなた達の味方となり、身を守ってくれる。

もちろん、我々もすぐに駆け付ける』


だが、長い時の中で、魔法使い一族は黒水晶の力に頼ることはなかった。

人間達に襲撃されても……。

魔法使い達は、平穏に暮らしたいと願う一方で、同じ思考を持った人間が現れるのを心待ちにしていたのだ。

そんな願いは叶うことなく、人間の悪意で魔法使いの人数は減り、黒水晶の存在価値を語り継ぐ者もいなくなった。

それから何百年かの時が流れ…………。

レイナスが生まれる数十年前から、魔法使い一族は再び人間と交流を持つようになっていた。