――…数時間後。

目を覚ますと、マイは右手にぬくもりを感じた。

それが人の手の感触だと分かったのは、ベッド脇に座っていたイサの顔を認めた後だった。

「マイ……!」

マイが目を開けるなり、イサは彼女の手を自分の頬にすり付け、潤んだ瞳をかたく閉じた。

「……イサ……」

「無事に目を覚ましてくれて良かった……。

もう二度と起きてくれないんじゃないかって思った……」


黒水晶に操られ、自身の魔法能力を使い果たしたマイの体は、悲鳴を上げていた。

ルーンティア共和国の王室専属の医師に診てもらっても、マイの意識を戻す方法は分からなかったのだという。


「黒水晶は……?」

マイが尋ねると、イサの横にいた一人の女性が答えた。

「破壊されました。

黒水晶による被害も最小限に抑えられました」

「あなたは……!」

マイは女性を見て目を見張る。

エーテルをもう少し成長させたら、この女性そっくりになるのではないだろうか。

透明感のある白い肌に、赤紫色の長い髪。

聖母のような慈悲(じひ)深さをたたえた、紫色の瞳。

イサの隣に立つ女性は、マイの心を読んだように微笑んだ。

「私はセレス。

エーテルの母です」

「セレス様……」

マイは、亡くなったエーテルの面影を目の前のセレスに重ねた。

“エーテルは、お母さんに似ていたんだね……”