自然の神には実体がある。

だが、その体質は人間と異なるため、黒水晶の影響を受けない。

一方、純正な人間であるイサやフェルト、レイルは、黒水晶から繰り出される攻撃に抗(あらが)うことが出来ず、その場で倒れてしまった。

酸素不足による貧血、立ちくらみ……といった症状を起こしている。

黒水晶が引き起こした死の霧とは、人間の持つあらゆる器官を使えなくする恐ろしい物質だ。


黒水晶に意識を乗っ取られたマイは自我を取り戻すことがないまま、無差別に世界を壊そうとしている。

ガーデット帝国以外の国に住む人々は、今ごろ混乱しているに違いない。


アルフレドは、意識を失いそうになっているイサの肩に手を置き、小さな声で言った。

「黒水晶の暴走は私達が止める。

謝っても済まないほど、君には迷惑をかけてしまったね。

本当にすまなかった……。


ゆっくり休んでいてくれ」

アルフレドのそのセリフには、イサへの優しさがこめられていた。

剣術師が苦手だと言っていた者のセリフだとは思えないほどに。


「後は、アルフレドさん達に任せましょう……」

フェルトのかすれた声を最後に、イサの意識は途切れた――。