リジェーノの後ろから駆けてきた幼い少女は、リボンがあしらわれたツインテールをぴょこぴょこ上下させながら、挨拶する時間すら惜しむように、矢継ぎ早にこう言った。

「わたくしは木の守り神、アチェレータ。

でも、今はそんなことどうでもいいの!

早く何とかしないと、全てが朽(く)ちて無になってしまうわ!

みんな、何のためにここまで来たと思ってるの!?」

柔らかくて幼い声に似合わず、神の中で一番しっかり者のアチェレータは、他の神たちを叱るように頬を膨らませている。

「ごめんなさい。そうだったわね」

リジェーノは、まるで姉のような振る舞いで身長の低いアチェレータの頭を撫でる。

こうしている間にも黒水晶の暴走は激しさを増し、それによって生まれた黒雲が世界全体を包もうとしていた。

今はまだガーデット帝国の領地にしか被害が出ていないが、放っておいたら全世界で同じような被害が出るだろう。

事は深刻だ。

黒水晶が放つブラックオーラを浴びたガーデット帝国領地内の草木は枯れ、土も乾いている。

池や川の水は水蒸気と化し、大地の栄養を衰えさせていく。

大気中の酸素も薄くなりつつある。


「なんだか、苦しいな。

うまく息ができない……」

イサは、目に見えない何者かの手で首を絞(し)められているような感覚を覚えた。

イサだけではなく、レイルやフェルトも、同じように息苦しさを感じていた。


自然の神達との会話で陽気が増したように見えたが、実際はもう、立っているのがつらくなるほど、この場は黒く淀(よど)んでいる。

黒水晶が漂わせる《死の霧(きり)》という魔法によって、人間の命は危険にさらされていたのだ。