一番初めにマイに関心を寄せて優しく話しかけたのが、さきほどマイの家に訪ねて来たテグレンという老婆だった。

テグレンはオリオン街で一人暮らしをしている、60才を過ぎたとは思えないほど快活な女性だ。

街の人々が「丘の上には変な女の子が住んでいる」と噂しているのを耳にしたテグレンは、噂に聞かない日はない丘の上の少女のことを気にかけていた。

「あんた、小さいのに1人で大丈夫なの? 親はどこにいるの?」

テグレンにそう訊(き)かれたかつての幼いマイは、

「親ってなあに?

1人で平気かって、どういうこと?

それに、私には魔法があるから大丈夫」

と、明るく答えた。

そんなマイを見て、テグレンは涙を流さずにはいられなかった。

“こんな幼い子が1人で住んでるなんてただ事じゃないね。

この子自身も知らない、何らかの深い事情があるんだろう……”

テグレンは心の中で誓った。

この命ある限り、マイを見守っていこうと。

以来数年間、テグレンは本当の孫のようにマイを可愛がってきた。

マイは今年14歳になったが、街に住む同世代の子供たちのように、学校へ通ったりはしていない。

親がいないからという理由もあるが、魔法以外に学びたいことがないからだ。

テグレンもそこは分かっており、マイに学校へ行くことを強要したりはしなかった。

かといって、マイは怠(なま)けているわけではない。

毎日ひたすら薬を調合し、街からやって来た患者の相手をし、夜には世界中の魔法書を読みあさっていた。

「魔法の勉強に励むのはいいことだけど、同じ年頃のお友達がいないのは寂しくないかい?」

テグレンはマイを見て時々そう言わずにはいられなかった。

「全然。ずっと1人だったし、今さら何とも思わないよ」

マイは右手でつかんだ魔法書と、左手で持つ魔法薬入りのグラスを交互に見ながらサクッとこたえる。

街の子供たちは皆、学校の友達と一緒に勉強したり遊んだりしている。

マイの元へも、魔法薬を求めて同じ年頃の少女がやってくることもある。

けれど、彼女達はマイに近寄りがたいのか、両者の間には目に見えない分厚い壁があるようで、店主と客の関係を超えることはなかった。