街の人を避難させるべきだと主張したレイルの判断は、正しかった。

人々が避難した後。

不気味なほど静まり返った城下街に、爆音が走った。

マイの暴走は止まることなく、黒水晶による攻撃はガーデット城下街にまで被害をもたらしたのだ。


イサはリンネやテグレンを民達たちと共に安全な場所に連れて行った直後、マイの居場所を突き止め愕然(がくぜん)とした。

光と闇の雨。

紫の炎で焼けている公園の木々。

鼻をつく焦げくささ。

長年かけて少しずつ築かれてきたガーデットの町並みは、荒れ地と化していた。

家屋の屋根は雷撃によって破壊され、植物はみんな竜巻に飲み込まれてしまった。

無傷な建物などひとつもない。


「黒水晶って、何なんだ……。

魔法使い達は、どうしてあんなものを守り続けなければならなかったんだ……?

マイはこんなことをする子じゃないのに!!

どうしてだよ!」

イサは悔しげな表情で、焼けたレンガ敷きストリートによつんばいになった。

炎をあびてそんなに時間が経っていないのだろう。

高熱を帯びたレンガは、イサの手のひらを焼くようにじりじり痛める。

頬からしたたる涙が地面に落ちると、じゅわっと音を立てて蒸発した。

「黒水晶って、破壊を招くために存在するのか……?」

イサの背後。

フェルトとレイルが、心もとない表情で立っていた。

彼らの後ろから、涼やかな男の声が聞こえたのはすぐのこと。

「剣術師の少年。

苦しい想いをさせてしまって、本当にすまないな」